コラム

2026.08.20

リチウムイオン電池における内部短絡の原因|CTによる対策を解説

猛暑日の自動車ダッシュボードなどに放置されたスマートフォンから、不測の発火事故が惹起される事象が報告されています。特段の外部操作を行っていないにもかかわらず電子機器が突如発火する背景には、電磁的エネルギー源として搭載されているリチウムイオン電池の内部状態が関係しています。   リチウムイオン電池は高エネルギーである一方、可燃性有機電解液を含み、過酷な温度環境や経年劣化で内部の化学異常反応が進むリスクがあります。   本記事では、外観から目視検出できず重大な発火事故の直接的契機となる内部短絡について、発生原因や進展挙動を解説します。

目次

リチウムイオン電池の内部短絡とそのリスク


リチウムイオン電池における致命的な発火・破裂事故を引き起こす要因の一つが、リチウムイオン電池の内部短絡です。電池内部において正極層と負極層が空間的に接触し、直接的に導通する現象を指します。
 
短絡が形成されると、その局所領域に大電流が集中して急激な自己発熱が発生します。発生した熱が電池内部の化学物質の連鎖的な分解反応を増幅させ、最終的に制御不能な熱暴走状態へと移行することで、激しい火災や爆発事故に至る極めて高い危険性を含んでいます。

内部短絡の定義と外部短絡との違い

リチウムイオン電池における著しい故障や安全上の事故例において、その過半数は短絡現象に起因しています。この短絡現象は発生メカニズムおよび部位の違いにより、内部短絡と外部短絡の二種に明確に区分されます。
 

  • 内部短絡
  • 電池のセル内部において正極と負極の間を遮蔽する絶縁部材が破損し、内部で直接的な電気的導通が成立した状態です。製造時の構造的欠陥や異物混入、物理的ストレスが主な要因となります。
     

  • 外部短絡
  • 電池パックの外部出力端子間が導電性物質の接触等により、意図せず短絡した状態です。機器の誤操作や配線の破損、外部からの衝撃が主な原因となります。

 
外部短絡が取扱方法に依存する割合が高いのに対し、内部短絡は構造的に外部からの視認が不可能であり、前触れなく急激な熱暴走を引き起こす特性を持つため、設計および検査段階における厳格な制御が不可欠です。

内部短絡から発火に至るメカニズム

リチウムイオン電池の内部短絡が発生すると、局所的な短絡電流による自己発熱が起点となり、熱および化学反応の不可逆的な連鎖プロセスが始まります。温度上昇に伴う相次ぐ熱分解の挙動は以下の通りです。
 

  • 初期段階
  • 内部短絡による局所的な短絡電流の発生に伴い、局所発熱が始まります。
     

  • 約80度
    負極表面に形成されている固体電解質界面被膜の分解が開始され、負極活物質と電解液の直接反応による自己発熱が増大します。
     

  • 約100度
  • 電解液の還元分解反応が進行し、ガス発生と内部圧力の上昇が誘発されます。
     

  • 約140度
  • セパレータの構成樹脂が熱融解して収縮するメルトダウンが生じ、正極と負極の全面的かつ不可避な大面積短絡へ至ります。
     

  • 約150度
  • 正極表面において電解液の酸化分解反応が促進され、さらに激しい発熱が引き起こされます。
     

  • 約180度
  • 電解液自身の熱分解反応が本格化します。
     

  • 約200度
  • 正極活物質の結晶構造が崩壊して熱分解を起こし、大量の酸素が放出されます。この酸素と可燃性有機電解液の存在により爆発的な自燃が誘発されます。
     

  • 約660度
  • 集電体であるアルミニウムの溶融に伴い強烈なテルミット反応が惹起され、極めて激しい燃焼状態に到達します。

 
このように、リチウムイオン電池の可燃性有機電解質は一度内部短絡を発生させると自己熱加速を制御することが困難であるという性質を有しています。

内部短絡が発生する主な原因

内部短絡の根本原因は、正負極間の絶縁不全や、熱的・物理的な劣化にあります。製造時の初期欠陥から、使用環境による経年変化まで要因は多岐にわたります。高エネルギー密度のセル設計では、微小な欠陥が絶縁破壊に直結するため、要因の包括的な特定が不可欠です。

製造工程における欠陥:異物混入、微小亀裂の発生

電池内部はミクロン単位の精度で構成されており、微小な異物の目視確認は困難です。そのため、混入経路の遮断と管理が重要となります。
 
主な混入経路と発生要因は以下の通りです。
 

    • 製造機械
    • 切削・打ち抜き時の金属粉、バリ、擦過粉、潤滑油の混入
       

    • 空調設備
    • 環境制御の不備による粉塵や水分の流入
       

    • 作業者要因
    • 作業着からの発塵や、治具に付着した不純物の移行

     
    異物の種類による主なリスクは以下の通りです。
     

    • 金属粒子
    • 銅や鉄などの金属粒子。セパレータを貫通し、両極を直接短絡させます。
       

    • 非金属粒子
    • 樹脂などの絶縁性粒子。局所的な応力集中を招き、セパレータを破損させます。
       

    • 水分混入
    • 電解液と反応して強酸を生成し、内部部材を腐食させます。

     
    また、電極の裁断時に生じた微小な亀裂も原因となります。充放電時の膨張・収縮によって欠陥が成長し、絶縁層を破壊して短絡を誘発します。

    セパレータの欠陥:材料および構造上の問題

    セパレータはポリオレフィン製の微多孔膜で、正負極を隔離しながらイオンを透過させます。通常、両極の間に挟まれ、強固に巻回・積層されています。
     
    膜厚は10〜25μmと極めて薄いため、製造時の張力や応力で破損し、絶縁機能を失うことがあります。また、熱可塑性ゆえに高温下で収縮し、極板端部が露出して広範囲な短絡を招く課題もあります。
     
    工程上のシワも問題です。シワの部分で電流が集中し、デンドライト成長の温床となるなど、複合的なトラブルに発展します。

    使用による要因:デンドライト形成、高温および低温への暴露

    出荷時に欠陥がなくても、使用履歴によって短絡が生じます。代表例は負極表面の「デンドライト(樹枝状結晶)」です。急速充電や低温充電時にリチウムが金属として析出し、成長した結晶がセパレータを突き破って短絡を引き起こします。
     
    過酷な環境下での使用も大きな影響を及ぼします。
     

    • 高温環境への暴露
    • 電解液の分解やガス発生によるセル膨張が進行します。構造が変形し、内部短絡が誘発されやすくなります。
       

    • 低温環境への暴露
    • イオンの拡散速度が低下するため、負極表面にリチウムが析出しやすくなり、デンドライトの成長確率が大幅に上昇します。

    CT検査による解析で何が分かるか


    リチウムイオン電池の内部短絡の原因を特定する上で、分解を伴う検査は発熱や発火のリスクを伴います。化学物質の漏洩による事故を防止する観点からも、安全な状態を維持できる非破壊検査が推奨されます。
     
    特にX線CT検査技術を用いると、製品の原型を保ったまま内部構造を精密に把握できます。製品内部の微小な破損箇所も安全に特定可能です。

    CT検査で可視化できること

    X線CT検査は、リチウムイオン電池に対して多方向からX線を照射し、透過画像から三次元データを構築する技術です。断面画像を連続的に取得し、内部構造を断層的・三次元的に可視化します。
     
    結果として製造工程で混入した微細な異物や、電極材の微小亀裂の位置を正確に特定できます。加えてデンドライトの成長過程や、電極層の物理的なずれも詳細に観察することが可能です。

    製造による誤差の解析

    リチウムイオン電池の各構成部品は数マイクロメートル単位の高い精度で組み立てられています。完成品は強固に密閉される構造であり、外観検査のみで内部の製造不良を発見することは困難です。
     
    CT検査を用いた解析では、組み立て時に発生した部品の形状不良や、寸法公差からの逸脱を正確に評価できます。設計データと実際の製品を比較し、微小な製造誤差を定量的に把握する手段として有効です。

    不具合の原因解析

    電子機器の継続的な使用に伴い、電池の急速な消耗や異常発熱といった不具合が生じることがあります。また未使用で長期保存された製品でも、充電状態や保管温度の影響で劣化が進行するケースが存在します。
     
    不具合が生じたセルを物理的に分解すると、短絡痕などの証拠が消失する恐れがあります。非破壊であるCT検査を利用すれば、内部短絡の原因を元の状態のまま正確に調査できます。

    劣化メカニズムの解析

    リチウムイオン電池は充放電サイクルの反復に伴い、不可逆的な性能低下を引き起こします。具体的には電解液の分解によるガス発生とセル膨張、電極活物質の剥離、デンドライトの成長などが挙げられます。
     
    これらは接触不良や内部短絡を誘発する主要な要因です。特定の充放電サイクルごとにCT検査を実施し、内部構造の経時的な三次元形状変化を追跡します。形状の変化を比較すれば、劣化の進行メカニズムを詳細に解析できます。

    落下・圧力による損傷の解析

    モバイル端末などの携帯機器は、落下や外部からの圧迫といった物理的な衝撃を受けるリスクを常に伴います。強い外力が加わった際、電池内部の電極やセパレータが数マイクロメートルずれるだけでも、致命的な短絡を引き起こす要因となります。
     
    CT検査を活用すれば、機器を分解することなく破損箇所を特定できます。変形の規模や立体的な形状変化を非破壊で正確に解析し、衝撃に対する耐性を評価可能です。

    CT検査データとCAEを組み合わせた構造解析の重要性


    CT検査は、対象物を破壊することなくリチウムイオン電池内部の物理的な状態や欠陥を三次元データとして取得します。
     
    対してCAE解析は、構築されたデジタルモデルを用いて応力や熱流体の計算を実行します。多様な環境下における製品の挙動を予測する技術です。
     
    実測データとシミュレーションを統合することで、内部短絡の発生条件を高い精度で予測できます。結果として製品設計の早期改善や品質の安定化に寄与します。

    CT検査データを用いた実物モデルベースの解析

    CT検査を通じて得られた断面画像データから、対象物の多様な情報を抽出して定量化できます。具体的な取得データは以下の通りです。
     

    • 各構成材料の体積分率
    • 活物質粒子の分布と細孔や繊維の構造
    • 電極コーティング層の厚み分布
    • 内部部品の高精度な寸法測定
    • 実物の状態を反映した非破壊3Dイメージ

     
    リチウムイオン電池の物理的な分解は発火を伴う危険性が高く、特殊な安全設備を必要とします。CTデータから実物の内部構造を忠実に再現した3Dモデルを構築すれば、デジタル空間で安全かつ詳細な検証が可能です。実際の損壊状態をモデル上で再現し、発火事故の実態に即した精緻なデータ解析を実現します。

    CT検査データによる実物とCAEによる予測データの差異検証

    工業製品の開発において、設計CADデータを基にしたCAEモデルで性能を予測する手法が広く普及しています。しかしリチウムイオン電池の場合、製造時の微細なばらつきやデンドライト形成などで内部構造が継続的に変化します。そのため設計データと実際の製品状態には乖離が生じる傾向にあります。
     
    CT検査から得た実物モデルと設計モデルの差異を詳細に検証し、劣化速度や耐久性を評価する工程が重要です。精度の高い実測データをCAEモデルへ学習させ、シミュレーション用パラメータを最適化します。

    CAE連携で高度な検証・解析

    CT検査で取得した実物の高精度3DモデルをCAEソフトウェアと連携させると、より現実的な性能評価を短期間で実行できます。実際の製品形状をベースとしたモデルに対し、様々な物理的条件を付与して複合的なシミュレーションを行います。
     
    CAE連携によって実施可能な主な解析手法は以下の通りです。
     

    • 外部応力に対する構造解析
    • 熱分布を予測する熱伝導解析
    • 内部ガスや液体の動きを追う熱流体解析
    • 落下時の影響を測る振動や衝撃解析
    • 製造時の変形を予測するプレスや鍛造解析

     
    実物ベースの解析結果から、内部短絡へと至るプロセスを詳細に特定できます。発生した問題が初期の製造不良に起因するのか、特定の充放電環境に起因するものなのかを客観的に判断します。原因を切り分けることで、適切な設計変更や改善策の立案へつなげます。

    電池の安全性の品質向上に貢献する解析ソフト「VGSTUDIO MAX」


    当社が開発・提供する「VGSTUDIO MAX」は、産業用X線CTデータに対応したハイエンド解析ソフトウェアです。取得したCTデータから実物ベースの3Dモデルを構築し、内部短絡の原因の究明や品質管理を支援します。
     
    本ソフトウェアの解析機能はモジュール形式を採用しています。お客様の検査目的に合わせて必要な機能を組み合わせ、最適な計測プロセスを提案します。

    CTによる製品内部の高精度な可視化

    GPU演算を活用し、CTスキャンデータの超高速かつ高精度なボリューム再構成処理を実行します。CTスキャナと独自の解析機能を連携させ、スキャン中のデータ補正をリアルタイムで行う機能を搭載しました。事前のテストスキャンにかかる工数を削減し、効率的な検査環境を提供します。
     
    長期間にわたる検査ラインでの運用を見据え、空間分解能やグレイバリューコントラストの評価機能も標準実装しています。長期のデータ品質を継続的に評価することで、量産工程においても一貫した計測精度を維持します。
     
    さらに欠陥および介在物解析モジュールをご利用いただくと、短絡の起点となる微小異物を自動で検出可能です。セパレータの欠陥や金属粉などを高精度に可視化し、不良品の流出を未然に防止します。対応する主なCTスキャン方式は以下の通りです。
     

    • コーンビームCT
    • ファンビームCT
    • パラレルビームCT
    • プラナーCT
    • ヘリカルCT

    幾何公差による定量的な品質・安全性評価

    リチウムイオン電池の複雑な内部構造に対する非破壊検査プロセスを簡素化します。複数の構成部品に対する測定プランを一元的に管理し、効率的なデータ処理環境を提供します。
     
    従来の接触式測定機ではアプローチできない電極層の配置などについて、幾何寸法および幾何公差に基づく定量的な評価が可能です。取得したCTデータと設計用CADデータを直接比較し、製品全体の形状差異を精密に検出します。
     
    検出された形状誤差は、直感的に把握しやすいカラーマップ形式で可視化されます。統計データを含むレポートまたは三次元画像として出力でき、設計部門への迅速なフィードバックを支援します。

    CAE連携による高度な解析

    VGSTUDIO MAXで取得した実測データを利用し、外部のCAEソフトウェアと連携したシミュレーション環境を構築できます。製品内部で検出された変形や異物といった欠陥情報を含むSTLなどのサーフェスメッシュや四面体メッシュデータへ変換してエクスポートします。
     
    実際の不良品データに基づく構造解析や熱流体シミュレーションを実行できます。内部短絡の挙動解析や原因究明をサポートします。理論上の設計データではなく、現物が持つマイクロメートル単位の製造誤差を解析に反映できる点が強みです。
     
    実測データとCADデータを空間で正確に位置合わせし、電極の肉厚変化や構造の歪みを評価する用途にも対応しています。

    解析データの一元化と自動レポート

    当社のソフトウェア内で実行された解析結果は、画像やヒストグラムおよびデータテーブルを含んだレポートとして即時出力されます。ユーザーの検査基準に応じたフォーマットのカスタマイズや、検査工程での自動出力運用に対応しています。
     
    生成された検査レポートはシステム内で一元管理され、各解析機能間でシームレスにデータを共有できます。製造現場における検査業務の属人化を防ぎ、効率的かつ正確な情報伝達を実現します。
     
    サードパーティ製の品質管理システムや統計的工程管理ソフトウェアとの連携機能も備えています。計測結果を業界標準のQ-DAS ASCII形式で出力し、既存の生産ラインや品質管理プロセスへ円滑に統合していただけます。

    まとめ


    リチウムイオン電池の内部短絡は、熱暴走や重大な発火事故を引き起こす要因です。主な要因は、製造工程における微小な異物混入やセパレータの損傷といった初期不良だけではありません。過酷な温度環境への暴露や、充放電に伴うデンドライトの成長など多岐にわたるのが実情です。また、落下などの物理的衝撃や電極の膨張収縮も短絡の引き金となります。
     
    組み上がった製品は外観から内部異常を発見することが困難です。加えて物理的な分解検査は発火リスクを伴い、不具合の証拠となる短絡痕を消失させる恐れがあります。したがって、対象を破壊せずに内部状態を安全かつ正確に把握できるCT検査の導入が求められます。取得した非破壊の三次元データとCAEを連携させた実物ベースの構造解析は、劣化メカニズムの究明に有効です。
     
    このような確実な原因特定のアプローチは、設計の早期改善や量産工程における品質安定化に直結します。当社の解析ソフト「VGSTUDIO MAX」は、高精度なボリュームデータ処理能力で検査プロセスの課題を解決へ導きます。
     
    欠陥の自動検出や寸法計測に対応する多様なモジュール群が、製造現場の要求に応じた柔軟な解析環境を提供します。電池の安全性と信頼性を確かなものとする基盤技術として、ぜひ本製品の導入をご検討ください。

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