2026.06.26

ふわふわなシュークリーム、サクサクとしたクロワッサン――食品のおいしさに欠かせない「食感」。その正体を科学的に解明しようとする企業があります。
1948年の創業以来、75年以上にわたりマーガリンやクリームなどの加工油脂製品を手がけるBtoB食品素材メーカー、月島食品工業株式会社は、2024年に食品業界でいち早く産業用X線CT装置を導入しました。
内部を含めた食品全体をスキャンし、専用ソフトで構造を解析することで、従来の試食(官能評価)や物性評価では分からなかった食感・構造の違いを可視化・定量化することに成功しています。
食感設計に新しい意思決定軸をもたらすこの技術。その導入の裏側と、同社が目指す「おいしさのその先」について、研究所の皆さまにお話を伺いました。
同社の研究所では、製品の品質管理や開発のため、約50種類もの分析手法を用いて食品の評価・分析を行っています。テクニカルエキスパートの溝部さんは、新たな分析ツールとして10年以上前からX線CTに注目していました。
それまで食品内部を観察するには、食品を切断するしかありませんでした。しかし、パンやシュークリームのような柔らかい食品は、切った瞬間に内部構造が崩れてしまいます。また、電子顕微鏡を使えば微細な構造(ミクロ)は確認できますが、その部分が食品全体の性質(たとえば食感やふんわり感など)にどうつながっているかまでは分からないという課題がありました。
こうした背景から、溝部さんは「非破壊で全体構造(マクロ)を捉え、その特徴を数値化できる技術」を長年探し求めていました。ただし、従来のX線CT装置は、X線を遮蔽するための防護壁が必要で重量が増すうえ、装置構造の制約で撮影できるサンプルサイズにも限界があることが導入のネックとなっていました。
「転機は3年前、島津製作所さんが持ってきてくれたチラシでした。重量も価格も以前検討していた装置の10分の1ほど。しかも、撮影できるサンプルの大きさは10倍にまで向上していたのです」と溝部さんは振り返ります。
実際にデモ機でスキャンを行った際、溝部さんはそのスピードと鮮明さに驚いたといいます。
「高い精度で撮影(スキャン)するには、30分から1時間はかかると思っていましたが、わずか5分ほどで非常にきれいな画像が撮れました。これなら食感の違いを説明できると強い手ごたえを感じ、上司に予算申請をしたところ、『これは使える!』と即座に採用が決まりました。」
さらに導入を後押ししたのが、スキャンしたデータを立体的に可視化・解析できるHexagonのソフトウェア「VGSTUDIO MAX」の存在でした。これにより、これまで目視では不可能だった高度な解析が可能になり、導入の決め手となったといいます。

卓上サイズで食品サンプルも手軽にスキャンできる島津製作所製X線CT装置 XSeeker 8000
同研究所の福田さんは、昨今の分析における「見た目の訴求力」の重要性を説きます。
「X線CTの画像は、 写真一枚がストーリーを語ってくれるような説得力があります。ビジュアルが重要視される今の時代のニーズに非常に合致しています」。
説得力のある画像と、それを裏付ける数値が生み出した具体的な成果として、菅原さんはある開発案件のエピソードを挙げます。
「目標とする製品(ベンチマーク品)に試作品を近づける開発において、官能評価では『近い』と感じても、お客様を納得させる決め手に欠けていました。そこで、CTによる内部の空洞構造解析や、体積を数値化したデータをお見せしたのです。『ここまで見えるんですね!』とお客様も驚かれ、その場で採用の方向性が固まりました」。
個人の主観に委ねられがちだった官能評価を、「写真と数値」という客観的な裏付けで補強できるようになったことは、同社の大きな強みとなっています。
同社は、単に素材を売るだけでなく、お客様の製造工程まで含めたトータルサポートを強みとしています。例えば、シュークリームの生地づくりにおいて、卵を入れるタイミングや量がボリュームにどう影響するかをCTで解析しました。これまで職人の『経験』や『コツ』とされてきたシュークリームのふくらみを生み出す要素が、実は気泡の入り方の違いに由来していることが、画像と数値によって明らかになりました。「技術の伝承を科学的に裏付けられるようになったことも大きな収穫です」。と溝部さんは言います。

X線CTによってシュークリーム内部の空隙構造とクリーム配置を高精細に可視化
同社では今、CT解析を用いた「知見の蓄積」を加速させています。菅原さんは、このノウハウの蓄積こそが、将来の大きな武器になると確信しています。
「現在は、原料や配合、工程条件といった様々なファクターを変えながら、基礎データを蓄積している段階です。このデータが積み上がってくると、『どうすれば、狙い通りの構造(食感)になるか』という因果関係がだんだんと見えてきます。そうなれば、手探りで行っていた試作の回数を劇的に減らすことができ、最終的には製品開発スピードの大幅な向上につながると考えています」。
感覚に頼っていた部分を「画像と数値」という客観的な定量データとして蓄積することで、より論理的でスピーディーな製品開発が可能になろうとしています。

食感解析について語る月島食品工業株式会社 研究所の溝部さん・菅原さん
導入当初は、不均一な組織を持つ「食品」の解析に苦労し、作業に3時間かかることもありました。
しかし、画像解析ソフトウェア「VGSTUDIO MAX」のプレミアムサポートに含まれるトレーニングやテクニカルサポートを活用し、 専門的な操作ノウハウを習得したことで、現在は30分ほどで解析を完了できるようになりました。さらに、形状抽出機能などソフトウェア自体の進化も、スピードアップに大きく寄与しています。「CT装置の性能を十分に引き出すには、VGSTUDIO MAXの活用とサポートサービスは欠かせませんね」と溝部さんは話します。

CTで撮った食品内部データを専用ソフトウェア『VGSTUDIO MAX』で数値化・解析する様子
現在、同社はパン類を中心に進めてきたCT解析を、調理加工品や焼き菓子など、より幅広いカテゴリーへと拡大しようとしています。また、X線CTを活用して工場内機器の摩耗や劣化を可視化し、設備管理へ応用する可能性も模索中です。さらには、今後スキャン速度が向上すれば、インラインでの品質管理にも活用できるのではないかと、業界の益々の発展に期待を寄せます。
最後に、研究チームの皆さまからメッセージをいただきました。
「食感と構造の関連研究は、まだパイオニア的な段階で、未知の領域がたくさんあります。
『おいしさ』のその先にあるものを一緒に追いかけるパートナーとして、食感でお困りのことがあれば、ぜひご相談ください」。
X線CTという「科学の眼」を手に入れた月島食品工業。同社が解き明かす食感の正体は、これからも多くの「おいしい」を支え続けていくことでしょう。

研究所・研究開発センターで“おいしさの秘密”を科学する 村川さん、菅原さん、福田さん、溝部さん

1962年に創業地である東京都中央区月島から現在の江戸川区東葛西に移動した本社兼東京工場
本ケーススタディで登場した装置・ソフトウェアは以下の通りです。
160 kV 高出力X線源と高解像度フラットパネル検出器を搭載した卓上型X線CTシステムです。コンパクトながら高い透過能力と鮮明な画像取得が可能で、樹脂成形品から金属部品まで幅広い対象物の非破壊観察に対応します。高速撮影と直感的な操作性により、研究開発から品質評価、検査工程まで柔軟に活用できます。
製品詳細:島津製作所公式ページ
CTで取得したボリュームデータを高精度に可視化・解析する、産業用CT解析ソフトウェアのデファクトスタンダードです。空隙解析、形状計測、欠陥解析、CAD比較など豊富な機能を備え、対象物の内部構造を定量的に評価できます。製品開発・品質管理・研究用途など幅広いシーンで利用されています。
製品詳細:VGSTUDIO MAX 公式ページ
© Hexagon Manufacturing Intelligence Japan
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