2025.09.17
「CAD」と「CAM」や「CAM」と「CNC」の組合せは、現在の製造業において欠かすことのできない技術です。とりわけ部品加工の分野では、これらを活用した図面作成や設計手法が広く注目を集めています。
本記事では、CAD・CNC・CAMを用いた部品加工の基本的な仕組みと、それぞれの導入によるメリットについて分かりやすく解説します。
目次
「CAD」とは “Computer Aided Design(コンピューター支援設計)” の略称で、日本語では一般的に「キャド」と呼ばれます。
CADは、コンピューター上で設計や製図を行うためのソフトウェアであり、従来の手作業による図面作成に比べて、精度や効率に大きな利点があります。
CADは、その用途や機能に応じて分類されます。主に、「平面図(2D)」を作成するか、「立体図形(3D)」を作成するかという図面表現の違いによる分類です。
それぞれの分類には、活用シーンや導入目的に応じた選定のポイントがあります。
平面図を作成するツール 2D CADは、平面上で図面を作成する設計ツールであり、機械部品の詳細図や建築物の平面図などに広く活用されています。線や寸法を用いた図面表現に特化しており、設計情報を明確に伝えることが可能です。
3D CAD:立体形状のモデリングツール 3D CADは、立体的な形状をコンピュータ上で造形し、製品の外観や構造を視覚的に表現できるツールです。曲面や複雑な形状の可視化にも優れており、製造前の確認やCAE解析にも利用されています。
CADは、利用目的に応じて「汎用CAD」と「専用CAD」に分類されます。汎用CADは、業種を問わず幅広い設計業務に対応可能であるのに対し、専用CADは、建築・土木・アパレルなど特定の業界に特化した機能を備えています。 特定分野における効率的な作業や業界固有の表現・操作に対応するためには、専用CADの導入が効果的です。
CADを導入することで、製図作業の効率化をはじめ、他のソフトウェアとの高い互換性など、さまざまな利点が得られます。
本節では、代表的な3つの導入メリットについて順を追って解説します。
2D CADには、従来の紙図面からスムーズに移行できるという利点があります。また、3D CADに比べてソフトウェア自体の価格が抑えられており、高度なコンピューター環境を必要とせず、比較的低スペックの端末でも安定して動作する点も特長です。
これらの点から、導入コストや運用負荷を抑えたい現場において、2D CADは非常に有効な選択肢となります。
一方、3D CADは立体的な図面表現を通じて、体積や表面積などのデータを直感的に把握できる点が大きな特長です。設計変更や修正も視覚的に行いやすく、設計プロセス全体の柔軟性が高まります。さらに、3Dモデルをもとに試作品を迅速に作成できるため、開発スピードの向上にも寄与します。
紙による製図作業と比較して、CADは修正や管理が容易である点が大きな特長です。
コンピューター上での設計作業により、精密な線引きや寸法指定が可能となり、図面の修正も迅速かつ正確に行えます。
さらに、複数のCADソフト間でデータ形式の互換性があるため、設計データの共有や管理が効率的に行える点も利点です。
加えて、3D CADを活用することで立体的なモデリングが可能となり、設計図面における完成イメージをより明確に可視化できます。これにより、製造現場との意思疎通も円滑になります。
CADでは、出力可能な拡張子(ファイル形式)が複数用意されており、他のソフトウェアとの互換性を確保しやすいという特長があります。
一部の形式は特定のCADソフトでしか読み込めないものも存在しますが、DXF や STEP などの汎用性の高い形式を使用すれば、異なるソフト間でもスムーズにデータを共有・活用することが可能です。
3D CADは、図面の作成前段階においてデザインレビューを実施できる高度な設計支援ツールです。
モデルをスクリーン上に実寸大で投影し、形状の確認や使用時の実用性評価を行うことも可能で、設計の初期段階から精度の高い検討が行えます。
また、3D CADで作成されたモデルは、図面データとしてそのまま製造工程で活用される例も多く、CAE(Computer Aided Engineering)との連携により、構造解析やシミュレーションへの応用も進んでいます。
通常、製品の内部構造を点検するには、物理的に解体や破壊を伴うケースが一般的ですが、3D CADを活用すれば、非破壊で内部の不具合や干渉の有無を確認することが可能です。
これにより、開発・検証工程におけるコストや工数を大幅に削減できるというメリットがあります。
「CNC」とは、”Computer Numerical Control(コンピューター数値制御)”の略称で、「シーエヌシー」と読みます。
これは、コンピューターによって工作機械を数値制御し、自動で加工を行う技術を指します。
CNCと加工プログラムの組合せにより、工作機械の動作を自在に制御させることを可能にし、品質の高い製品を安定的かつ効率的に生産することが可能となります。
CADデータをもとに実際の立体物を製作する際には、3Dプリンターによる造形や素材の切削加工といった方法が一般的に用いられます。この際、加工機械の動作をコンピューターで制御する技術が「CNC(コンピューター数値制御)」です。このCNCの基本的な仕組みと、部品加工における役割・重要性について詳しく解説します。
切削加工を自動的に行う工作機械は一般にマシニングセンタやNCフライスと呼ばれ、一般的に自動工具交換機能を持つ工作機械をマシニングセンタと呼びます。
この加工工程では、まずCADによって製品モデルを設計し、その後CAMソフトウェアを用いて”工具の動き(ツールパス)”を作成します。作成されたツールパスは、”NCデータ(数値制御用データ)”としてマシニングセンタに送られ、これに基づいて高精度な切削加工が実行されます。この一連の流れにより、設計から加工までを一貫してコンピューター上で制御・実行することが可能となります。
旋盤加工とは、素材を回転させながら刃物を当て、不要な部分を削り取ることで形状を整える加工方法です。この工程をコンピューター制御で行う装置が「NC旋盤(数値制御旋盤)」です。NC旋盤では、CADで作成した設計データをもとに回転加工を行い、刃物の移動量や切削条件などの数値計算はCAMソフトウェアが自動的に行います。
NC旋盤では、タレットと呼ばれる刃物台を所有する工作機械が一般的であり、タレットに装着した複数の工具を交換し製品加工を進めます。自動工具交換により大幅に加工効率を向上させます。
放電加工は、刃物を使用する切削加工や旋盤加工とは異なり、電気的な放電によって発生する熱を利用して金属を溶解し、形状を加工する方法です。この加工法は、硬度の高い金属や複雑な形状の加工に適しており、工具が直接素材に接触しないという特長を持ちます。
放電加工には、ワイヤー放電加工と形彫放電加工があります。ワイヤー放電加工は、0.2mm程度のワイヤーを電極として利用し、ピンと張ったワイヤーを動作させ金属を溶解させます。形彫放電加工は、電極自体が形状を持っており、その形状を転写するように金属に押し当て、溶解します。
平面研削盤は、砥石を用いて対象物の表面を精密に削り取り、滑らかに仕上げる加工機械です。主に高い平面度や表面粗さが求められる部品の加工に用いられ、金属部品の仕上げ工程などで広く活用されています。
CNC(コンピューター数値制御)による部品加工には、いくつかの重要なメリットがあります。第一に挙げられるのは、品質の安定化です。
従来の手作業による加工では、作業者のスキルや経験値の違いにより、製品の寸法や仕上がりにばらつきが生じることがありました。一方、CNCでは、あらかじめ設定されたプログラムに基づき加工が行われるため、一定の品質を安定して確保することが可能です。
次に、大量生産におけるコスト削減効果も見逃せません。
CNC加工は自動で処理が進行するため、加工時間を短縮でき、効率的な生産体制が構築されます。さらに、1名の作業者が複数台の工作機械を同時に管理する運用も可能であり、場合によっては”無人運転(無人加工)”が実現できるケースもあります。
こうした特徴により、同一製品を効率良く量産する場面において極めて有効です。
また、作業の安全性向上もCNC導入の利点です。
自動化された加工プロセスでは、作業者が機械に近づく必要がないため、巻き込み事故や切削くずによるケガなどのリスクを大幅に低減できます。
さらに、CNC加工は複雑な形状にも対応可能です。
その仕組みを支えているのが、”CAM(Computer Aided Manufacturing:コンピューター支援製造)”です。
CAMでは、CADで設計したデータをもとに、使用する工具の種類や動作条件、移動経路(ツールパス)などを自動で作成します。
これにより、加工工程の一部またはすべてを自動化でき、高度かつ再現性のある加工処理が実現されます。
マシニングセンタや旋盤機、放電加工機がどのようにしてCAD・CAMを活用しているのかを紹介します。
近年では、X・Y・Zの3軸に加え、回転軸や傾斜軸を備えた「5軸マシニングセンタ」も登場しており、より複雑かつ高精度な部品加工が可能となっています。
こうした5軸マシニングセンタに対応した専用のCAD・CAMソフトウェアを活用することで、より設計意図に近い、精密な加工の実現が可能です。
また、加工方法の多様化も進んでおり、たとえばスワーフ加工・ポート加工・5軸削り残し加工といった高度な加工技術や、バレル工具やレンズ工具に対応するツールパスも広く利用されています。これにより、これまで困難とされていた形状や表面処理にも柔軟に対応できる環境が整いつつあります。
旋盤や複合加工機の分野においても、CADやCAMの活用は極めて有効です。たとえば、工具・スピンドル・タレットといった複数の要素が絡む複雑な加工条件においても、CADやCAMを活用することで、待ち合わせ制御や同期動作の定義を簡潔かつ正確に行うことが可能となります。
さらに、事前に加工シミュレーションを実行することで、実際の部品製作に着手する前に潜在的な干渉や不具合を発見することができ、不良品の削減やトライアンドエラーの回避により、コスト最適化にも寄与します。
ワイヤー放電加工機は、0.2MMほどのワイヤーを電極として利用し、部品を切り出す作業を担う工作機械です。CADおよびCAMにより、複雑な形状を的確な加工条件を算出します。
CAD・CAMを活用すれば、上下異形状プログラムや、同じ経路を何度か切り落として精度を高める工程を、プログラムとして出力できます。三次元モデルや図面から形を決めてプログラムを抽出できるため、事前準備も容易です。
CAM(Computer Aided Manufacturing)には、前述のとおり、工具の移動経路(ツールパス)を自動で生成する機能が搭載されています。この処理は「ツールパス生成」と呼ばれ、加工者はツールパス上で各工程の加工方法――たとえば粗加工か仕上げ加工か――を詳細に指定しながら、目的に応じた切削プログラムを作成することが可能です。
ツールパスは一般に「カッターロケーションデータ(CLデータ)」と呼ばれ、CAMごとに独自形式で保存されます。ただし、CLデータはそのままでは工作機械では使用できないため、実際の機械動作に適した形式への変換が必要です。
このとき使用されるのが、「ポストプロセッサ」と呼ばれる変換機能です。ポストプロセッサを通じてCLデータは、NC(Numerical Control)データへと変換され、最終的に工作機械へ入力されることで、加工が実行可能となります。
CAMには、こうしたツールパス生成に加えて、切削シミュレーション機能やマシン動作シミュレーション機能も搭載されています。この機能により、加工前の段階で工具同士の干渉や衝突リスクを事前に検出し、エラーを未然に防止することができます。実際の工具の動きをソフトウェア上で視覚的に再現することで、加工工程の安全性と信頼性が高まります。
さらに、CAMはCADとの連携にも優れており、設計変更が発生した場合でも、CADで更新されたモデルデータをもとに迅速に加工データを再生成することが可能です。
このように、CAMの活用により、設計から加工までの一貫したデジタルプロセスが実現され、部品加工の生産性向上につながります。
製造工程の自動化、生産効率の上昇、最適なプログラミングなど、CAMは様々なメリットを持つツールです。ただし、「対応する設備や技術が必要」といった注意点もあります。
CAM(Computer Aided Manufacturing)を導入することで、製造工程の自動化と高精度な加工の実現が可能となります。コンピューター制御により、従来の職人による手作業と比較して、安定した品質と高い寸法精度が確保されるため、精度が重視される航空機部品や医療機器などの分野では、製品の安全性確保においても重要な役割を果たします。
また、自動化されたプログラムにより、反復的な加工工程を迅速かつ正確に実行できる点も大きな利点です。複雑な形状を持つ部品でも、プログラムを一度作成すれば、同一設計の製品を何度でも均一な品質で再現可能であり、大量生産における生産効率の向上とコスト削減に貢献します。
加えて、部品の仕様変更が発生した場合でも、CAMソフトウェア上で迅速にデータを更新できるため、設計変更への柔軟な対応が可能です。これにより、試作開発や小ロット生産にも対応しやすくなり、市場ニーズの変化に即応する体制が整います。
さらに、高性能なCAMソフトウェアでは、使用する工作機械に合わせて最適化されたシンプルなプログラムを自動生成する機能を備えており、機械の稼働率向上や段取り時間の短縮にも寄与します。
CAMを導入するにあたって、対応した機械が必要です。設備投資にかかるコストについては、十分に検討しましょう。
また、CAMを扱えるエンジニアが必要です。誰もCAMが使えないときには、新たに勉強して育成する時間がかかります。現状で使いこなせるかどうかを考えてから、導入を決めましょう。
「ESPRIT」は、弊社Hexagonが提供する高機能なCAMソフトウェアです。CNC工作機械に最適なプログラムを生成し、正確なシミュレーションを通じて、稼働率の向上を実現します。
特徴的なのは、幅広い機種に対してCNC工作機械を共通のインターフェースで操作できる点です。また、現実の機械や動作を仮想空間に再現する「デジタルツイン」技術により、実際の加工に限りなく近い環境でのシミュレーションができると共に、使用する工作機械に最適なツールパスを作成します。
ESPRITでは、デジタルツインを活用してプログラミングプロセスを効率化します。編集不要なプログラムデータを出力できるため、手戻りを防ぐことが可能です。
さらに、APIによるカスタマイズ性にも優れています。企業ごとの課題や用途に応じて自動化ソリューションを構築でき、繰り返し作業の削減や、独自のフローへの対応もスムーズです。
ESPRITには、マシンモデル・コントローラエミュレータ・パラメータ・ポストプロセッサを含む「デジタルマシンパッケージ」が導入されています。よりリアルで正確なシミュレーションと、工作機械に最適化された出力データを両立します。
ESPRITは、2軸加工から同時5軸加工、2軸から22軸に対応した旋盤加工、オンマシン計測、アディティブDED(積層造形)まで、あらゆるCNC加工方式をサポートしています。
そのため、小型のスイス式自動旋盤から大型のガントリーマシンまで、幅広い構成に対応可能です。航空宇宙や医療機器など、多様な業界でも活用されています。
ESPRITは、加工段取りの時間短縮にも貢献します。リードタイムを短縮し、加工機の停止時間を最小化することで、全体の生産性が向上します。さらに、デジタルツインを活用することで、実加工に入る前にサイバー空間で工程改善を行うことも可能です。コストをかけずに最適な加工プロセスを事前に検討できます。
CADによる設計とCNCによる機械動作は部品加工の精度を向上させ、製造工程の効率化を実現します。製造業における人手不足や、職人の手作業による属人化を防ぐ意味でも役立つでしょう。
このCADとCNC工作機械をつなぐ重要な役割を持つのがCAMソフトウェアです。CADとの連携を通じてCLデータを自動作成するほか、CLデータのシミュレーションにより実際の作業でのエラーを回避します。また、ポストプロセッサが含まれたCAMでなら、CLデータをCNC工作機械用のプログラム言語に素早く変換できます。
ESPRITでは、正確なシミュレーションとより最適化されたCNC工作機械用のプログラム言語出力が可能です。CADとCNCによる部品加工をより最適化したい方は、ぜひESPRITの導入をご検討ください。
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