2026.07.31

電動モビリティや蓄電システムなどで採用が進むリチウムイオン電池では、高エネルギー密度化に伴い、熱暴走や発火事故を未然に防止する安全設計が重要課題となっています。
設計から製造の各段階で高い安全性を確保するには、高度な検査および評価体制が不可欠です。本記事では発火のメカニズムを整理し、X線CTとCAEを融合した評価手法を解説します。
目次
市場不具合や安全性試験で頻発する発火要因について、物理的、電気化学的、および構造的な観点から分類して解説します。
正極と負極を隔離するセパレーターが破断または絶縁機能を喪失し、両極が直接接触する現象が内部短絡です。短絡経路が形成されると、接触部の微小な抵抗成分に対して大電流が集中し、ジュール熱が急速に発生してセル局所の温度が瞬間的に上昇します。発生熱量が放熱能力を上回ると、電解液分解や電極反応が連鎖的に進行し、熱暴走や発火へ進展する可能性があります。
トリガーには、電極塗工面の微小突起、充放電時の活物質体積変化に伴うセパレーター摩耗、過充電でのリチウム析出などが存在します。セパレーターの薄膜化が進む昨今の設計では、微小の応力集中が短絡起点となりやすいため、セル単位での安全マージン確保が機器設計において求められます。
セル製造における導電性異物の混入や電極の層剥離は、長期使用時の潜在的な発火リスクです。塗工やスリット工程等で微小な金属粉が混入すると、セパレーターを物理的に圧迫あるいは貫通する危険性があります。
加えて、集電体金属箔と活物質層間の密着性低下に起因する層剥離も欠陥に該当します。剥離領域では電流分布や接触抵抗が不均一となり、局所的な発熱や副反応を誘発します。
結果として特定の箇所へ負荷が集中し、継続的な発熱や副反応が促進されます。これらの製造欠陥は出荷検査で検知されにくく、市場で充放電サイクルを重ねた後に顕在化するため品質保証上の課題となります。
落下衝撃や局所的な圧力印加などの機械的負荷も、発火を直接引き起こす要因です。内部は正負極やセパレーターが高密度に積層および捲回された複雑な構造体であり、外部応力に対して構造的な脆弱性を持ちます。
剛性の高いセル外装が変形すると、歪みエネルギーは内部電極群へ直接伝達されます。応力が集中しやすい幾何学的特異点で圧縮応力やせん断応力が発生し、セパレーターの座屈や電極箔の破断を引き起こします。
特に局所的な圧壊は広範囲で絶縁を喪失させ、発火に至るリスクを高める要因です。直ちに発火を伴わない微小変形でも、その後の充放電に伴う膨張と収縮の応力が複合的に作用し、遅延性の発火を誘発する恐れがあります。
放熱設計が不十分な筐体内における連続稼働など、環境温度の異常な上昇は材料劣化を加速させる要因です。一般に高温下では熱力学的に不安定となり、予期せぬ副反応が進行しやすくなります。
高温状態が継続すると、まず負極表面を保護するSEI被膜の熱分解が開始し、露出した負極活物質が電解液と直接反応して自己発熱を伴う劣化反応を進めます。
同時に正極側でも結晶構造崩壊に伴う酸素の離脱反応が懸念され、電解液の酸化分解をさらに促進させる働きをします。外部からの熱負荷が継続し、副反応群による総発熱量が排熱能力を超過した場合、セルは制御不能な発熱状態へと移行します。
物理的および構造的な要因を起点として、具体的に発火へ至る電気化学的プロセスを解説します。
短絡経路が形成された場合、短絡部へ周囲から急速に電流が流れ込みます。短絡点の微小な抵抗に対して大電流が集中し、急激なジュール熱が発生する仕組みです。熱量は電流の2乗と抵抗値の積に比例するため、短絡面積が狭いほど電流密度が増大し発熱量も急増します。
電極材やセパレーターの熱伝導率は厚み方向で低くなる異方性を有するため、発生した熱は周辺へ拡散しにくく特定箇所に滞留しやすい物理特性を持ちます。局所的な温度上昇が進行すると周囲の材料温度も連鎖的に上昇し、後続の化学反応を誘発する活性化エネルギーの閾値に達します。この急峻な温度勾配が限界温度を超過させ、セルの熱的安定性を損なう起点となります。
デンドライトとは、充放電過程でリチウムイオンが還元され、負極表面に樹枝状に析出した結晶体を指します。低温充電や過充電などで負極へのイオン受入性が低下すると、不均一な還元反応により特異点へ電流が集中し針状結晶が成長します。
成長した結晶は機械的強度を有し、セパレーターの微細孔を押し広げ正極へ到達する懸念があります。接触により新たな短絡経路が形成されると異常発熱を誘発します。さらに短絡電流によるジュール熱で結晶自体が溶断と再形成を繰り返し、セパレーターの熱収縮や溶融が進行します。
絶縁性を喪失した領域が広がることで接触面積が段階的に拡大し、熱分解反応を駆動する熱源として機能するのです。
局所的な発熱や外部熱負荷でセル内温度が一定の閾値を超過すると、可燃性有機溶媒を主成分とする電解液の気化および分解反応が連続的に開始します。炭酸エステル系溶媒は熱分解により二酸化炭素やメタン等のガスを生成し、フッ素系支持塩も分解してフッ化水素などの腐食性ガスを発生させます。
これらの気化やガス発生の進行は、セル内圧を急激に上昇させます。密閉構造の外装内圧が耐圧限界値を超えると、安全弁の作動や外装破裂を伴い、高温の可燃性混合ガスが外部へ噴出します。
放出されたガスが空気中の酸素と混合し、短絡部の火花や高温部材を引火源として着火することで激しい発火現象へ進展します。
セル内部で生じた発熱が周囲の材料を次々と分解させ、制御不能な発熱状態に陥るプロセスが熱暴走です。この現象は温度上昇に伴って複数の化学反応が連鎖する、正のフィードバックループで構成されます。初期の温度上昇が約90℃から120℃に達すると、まず負極表面のSEI被膜が熱分解し、露出した負極活物質と電解液の間に自己発熱を伴う反応が生じます。その後、セパレーターの溶融や正極からの酸素放出などが連鎖し、温度上昇が指数関数的に増大して熱暴走状態へと移行します。
発火リスクを低減するには、要因に応じた評価手法の適用が求められます。X線CTとCAEシミュレーションを活用した具体的な解析アプローチを解説します。
製造工程での異物混入や電極の層剥離を非破壊でスクリーニングする手法として、産業用X線CTは有効です。従来の電気的特性検査では微小な欠陥を捉えきれず、長期運用後に市場で顕在化するリスクが残ります。
X線CTを用いれば、セルを解体せずに内部の三次元的な密度差を可視化できます。高分解能スキャンにより、数十マイクロメートルオーダーの金属粉を特定し、セパレーターへの貫入状態を定量的に評価可能です。電極材と集電体間の微小な剥離もコントラスト差として明瞭に検出されます。CT観察を解析プロセスに組み込むことで異常を早期に察知し、欠陥排除に繋げることが可能です。
機械的負荷に対するセルの耐性評価では、安全性試験の前後における内部構造の比較解析が有効です。試験後の解体調査では外装開封時に応力が解放され、本来の変形状態や短絡起点が失われる懸念があるため、非破壊評価プロセスの導入が原因究明の前提となります。
試験前後の同一セルをCTスキャンしてデータを空間的に重ね合わせることで、外部応力の影響を正確にトラッキングすることが可能です。外部応力によるセパレーターの座屈進行度合いや、集電箔の亀裂箇所を特定する作業が該当します。この差分評価を通じて想定外の応力集中箇所を把握し、筐体設計の妥当性を検証する客観的エビデンスを取得できます。
計算機援用工学に基づくシミュレーションは、設計の初期段階で発火リスクを予測し低減する枠組みを提供します。セルの寸法や材料物性をモデル化し、高負荷サイクルや外部短絡時の挙動を仮想空間上で再現する手法です。
解析の適用により、大電流印加時の局所的な発熱分布や、外部衝撃時の応力伝播経路を定量的に見積もれます。得られた結果に基づき、熱が滞留しやすい領域への放熱経路追加や、応力集中を緩和する配置見直しといった設計変更を事前に判断できます。実機テスト前に安全マージンを確保した変数を導出できるため、開発の手戻りを抑え製品の信頼性を高める効果が期待できます。

産業用X線CTは、セル内部を解体せずに三次元評価する強力な解析ツールです。取得したボクセルデータから各種欠陥を抽出し、品質向上へ繋げるアプローチを解説します。
X線CTの撮像データは、対象物のX線吸収係数に基づく濃淡の三次元ボクセル群として再構成されます。金属異物や成長したデンドライトは周辺の活物質や電解液と比較して密度が高く、X線透過率が低いため、画像上で高輝度の領域として明瞭に分離できる点が特徴です。
解析ソフトで特定の輝度閾値を設定すれば、これら高密度物質の体積や空間的な座標の自動抽出が実現します。対照的に、層剥離や内部空隙は空気が介在する低密度領域として振る舞い、低輝度のボクセル群として描出される理屈です。
近年はX線CTスキャンの空間分解能をサブマイクロメートルオーダーまで最適化する技術が急速に普及しており、初期の微小な金属析出物から広範囲の密着不良まで、スケールの異なる異常を同一データ内で検証できます。金属材料によるメタルアーティファクトを低減する再構成処理と併用することで、高精度な欠陥スクリーニングが可能になります。
電極群の幾何学的な構造乱れを空間的に把握する上で、CTデータの任意断面観察は高い有用性を示します。直交三断面や円筒面に沿った展開画像などをデジタル空間上で自由に生成し、二次元の透過X線では視認困難な内部の局所的な歪みを的確に捉える手法です。
樹脂製のセパレーター単体はX線吸収率が低く、CT画像上で直接形状を視認することは容易ではありません。しかし、X線吸収率の高い正負極の界面をトレースして両極間の距離を算出し、間接的にセパレーターの圧迫や損傷リスクを推測するアプローチが確立されています。
過度な充放電サイクルの繰り返しや外部からの機械的応力に起因する電極箔の座屈、極板端部の折れ曲がりなどは、形状解析によって異常箇所として判断されます。三次元モデル上で正極と負極のクリアランス寸法を測定し、設計公差から逸脱した特異点をマッピングするプロセスは、短絡に至る構造的要因を排除し安全設計を担保する上で不可欠な工程です。
可視化された内部欠陥の三次元データは、出荷前の不良品選別に留まらず、上流の製造プロセスを最適化するための統計的な指標として機能します。蓄積された欠陥のサイズや発生位置の分布データを多角的に解析し、どの設備や生産条件が異常の引き金となっているかを論理的に推定する作業です。
特定の深さに金属異物の混入が集中しているケースでは、スリッター刃の摩耗や搬送ローラーの表面異常といった機械的要因を特定する有力な根拠となります。捲回ズレや積層ピッチのばらつき発生傾向を連続監視する体制を構築すれば、ワインダーの張力制御やプレスマンのクリアランス調整へ直接活かすことも難しくありません。
非破壊検査で得られる定量的なファクトを生産技術部門へ継続的にフィードバックする情報ループの構築こそが、品質管理の要諦です。検査工程を能動的なデータソースとして活用し、歩留まり向上と発火リスク低減を両立させる姿勢が求められます。

理想的なCADモデルに対し、実際の生産品には製造公差や不均一性に起因する微細な形状の差異が存在します。この初期不整が安全性に与える影響を定量化するため、実物のCTデータとCAEを連携させた実形状解析が不可欠なアプローチとなっています。
現物のリチウムイオン電池を産業用X線CTで計測し、内部構造をデジタル空間上に高精度な幾何形状として再現する手法がリバースエンジニアリングです。
設計図面のCADデータは各部材の境界が平滑な直線や曲線で構成されますが、実際のセル内部には極板のわずかなうねりや塗工厚みの不均一性が含まれます。こうした製造由来の幾何学的偏差を、ボクセルデータからポリゴンメッシュへと直接変換する処理が解析の起点です。
変換プロセスでは、輝度情報を基に正極、負極、外装材といった材料ドメインを正確にセグメンテーションする技術が求められます。抽出された三次元境界データは有限要素法の計算に耐えうる高品位なメッシュデータへと再構築され、図面では見落とされがちな実機特有の幾何学的初期不整を含む解析モデルが構築可能となるのです。
構築した実形状モデルに対し熱伝導方程式や固体力学の支配方程式を適用し、現実のセルに即したシミュレーションを実現します。充放電に伴う活物質の膨張収縮挙動は、極板の局所的な曲率や空隙分布によって面内で非一様な応力場を形成する要因です。CADモデルの一様な計算では捉えられない、特定のうねり部分への応力集中をピンポイントで捉える作業が解析の核心です。
例えば、捲回型セルのコーナー部で実物の極板がわずかに傾斜している場合、その領域では局所的に電流密度が高まり発熱密度も増大する現象が発生します。実形状に基づくCAEは、こうしたマクロな不均一性と異方性熱伝導率の歪みを正確に計算へ反映させる仕組みです。熱と応力の複合物理現象を実形状ベースで解析するアプローチは、構造破壊や微小短絡へ至る境界条件の特定に寄与します。
実形状解析から得られる定量的知見は次世代セルの開発段階へ還流され、熱暴走リスクの根源的な低減に役立ちます。実際の製造サンプルに見られる極板のばらつきや、安全性試験後に発生した変形挙動をCAE上で逆解析し、形状の不均一性がどの程度熱的マージンを低下させるのか明確な相関関係を導き出すプロセスです。
設計者はこの客観的なデータに基づき、製造ばらつきを織り込んだ許容公差を初期段階から設定しやすくなります。
さらに、筐体レベルでの放熱構造やセル配置間隔を最適化する際にも、導出された発熱特性データが有効な入力条件として機能します。異常発熱の起点となりやすい特異点を事前に把握できていれば、特定領域へ集中的に冷却ラインを配置するなど、先回りした熱マネジメント設計が可能です。
実物の構造的リアルさを計算科学へ融合させるこのフレームワークこそが、物理的な試作サイクルを圧縮しつつ、高エネルギー密度と高い安全性を両立させる製品開発に繋がります。

リチウムイオン電池の複雑な内部構造を正確に評価するためには、専用の解析基盤が求められます。そこで、ボクセルデータの直接処理を強みとするハイエンドCT解析ソフトウェア「VGSTUDIO MAX」の活用アプローチを紹介します。
VGSTUDIO MAXは、CTスキャンで取得したボクセルデータを点群やメッシュへ変換せず、直接解析・可視化する仕様を備えるソフトウェアです。中間変換に伴うデータ欠損を排除した状態で、高精度な評価が進行する設計となっています。バッテリー解析機能などを組み合わせて活用すれば、異物混入や内部構造の検査タスクを単一環境で完結できる強みを持ちます。
欠陥や介在物を自動検出するアルゴリズムを実装し、空隙や金属異物を体積ベースで色分け表示する機能を有します。形状評価機能群と統合することで、設計CADデータとの幾何学的な寸法差をボクセル上で直接比較・評価できる仕様です。微細な層剥離や電極の歪みを定量的な数値として客観的に抽出できるため、製造プロセスにおける不具合の根本原因を、論理的に追究する作業を支援します。
CTデータに含まれる実物特有の幾何学的不整を、外部CAE計算に適合するボリュームメッシュへと直接変換する機能を搭載しています。理想の設計形状ではなく、実際の製造誤差を反映した実形状モデルをシミュレーション環境へシームレスに受け渡すことが可能な仕組みです。このデータ連携フレームワークが、熱暴走リスクの精緻な予測と安全マージン最適化を推進する技術的基盤となります。
リチウムイオン電池の発火防止には、内部短絡から熱暴走へ至るメカニズムの正確な把握が不可欠です。製造欠陥や初期不整がもたらす潜在的リスクの排除に向け、X線CTによる非破壊検査と、実形状に基づくCAEシミュレーションの融合が大きな役割を果たします。
VGSTUDIO MAX等の高度な解析環境を組み込み、設計から品質保証までを定量的なファクトで繋ぐアプローチこそが、製品の安全性と信頼性を高める確かな最適解になるでしょう。
Top Articles
よく読まれている記事
Featured Product
Featured Articles
2026.07.31
電池の寿命と劣化メカニズム|サイクル劣化・温度劣化を…
電気自動車や定置用蓄電システム、モバイル機器から産業用ドローンに…
2026.05.28
リバースエンジニアリングで製品イノベーションを促進
従来製品から新たな価値を引き出す
2026.05.28
3Dスキャンデータの有効活用が成功の鍵を握る
スキャンデータとCADをスムーズに繋げる「リバースエンジニアリン…
2026.03.19
自動車用金属プレス部品の高速化・高精度化を実現
高速で精確な非接触計測を備えた自動車産業の品質検査課題の解決 …
2026.03.19
バッテリー製造におけるX線CTの活用で得られる知見と…
バッテリーは世界的に需要が高まっているものの、製造にあたっては複…
2026.03.19
バッテリー製造における課題解決の鍵は「非破壊検査」
バッテリーは電動モビリティやポータブルデバイス、データセンターな…
2025.12.25
点群データとは | 非接触で3Dデータが取得できる手…
点群データは対象物や空間を高精度に三次元で再現できる技術として、…
2025.12.25
品質保証における革新| ロボット支援計測技術と3Dレ…
© Hexagon Manufacturing Intelligence Japan
© Hexagon Manufacturing Intelligence Japan