2026.03.19

バッテリーは世界的に需要が高まっているものの、製造にあたっては複雑な工程があり、多くの課題を抱えています。特に、発火などの事故を起こさないためには安全性の確保が重要で、そのためには各工程における検査が品質保証の要諦になります。前回の記事『バッテリー製造における課題解決の鍵は「非破壊検査」』では、分解せずに内部構造も含めた検査が可能な非破壊検査の有効性について触れました。本記事では、製造における諸課題を解決する非破壊検査の具体的な活用事例を紹介するとともに、検査データから得られる知見について解説します。
目次
電動モビリティやスマートフォン、データセンターなどで現在利用されている主要なバッテリーは、リチウムイオンバッテリーです。正極、負極、電解液、セパレータで構成され、充放電によってリチウムイオンが負極と正極間を介して電子が移動することで電流が発生します。 繰り返し充電して使えることが特長です。
リチウムイオンバッテリーの製造は、次のような流れで進められます。材料や電極の開発から製造、バッテリーの1単位を構成するセルの組み立て、セルを複数接続するモジュール化、製品としてのパック化などのプロセスです。
多段的な工程のため、品質においても各段階で多層の検査が必要になり、検査項目も多岐にわたっています。重要な検査には、電極の均一性やセルの内部抵抗、容量検査、それに安全性試験などがあります。バッテリー製造に求められる低コスト化と高性能化を実現し、安全性を担保するためには、各工程で高精度の品質検査が不可欠です。
各工程の主要な品質検査項目を見ていきます。材料の受け入れでは、素材の粒度分布や表面積の計測、水分の含有や結晶構造などが正確に検査できなければ、性能に影響が出てきます。正極と負極が触れないようにしてイオンだけを通すセパレータだけでも、イオンを通す孔径や厚み、それに絶縁強度、異物の有無など品質検査項目は多数あります。
電極の製造工程では、材料の粘度や粒度、分散性などを評価するスラリー検査と、コーティングの品質検査があります。コーティングでは厚みや密度の測定のほか、表面の欠陥検査などが必要で、いずれも高度な検査が求められます。
セルの組み立てでは、しわや折れ、溶接の状態などを検査します。モジュール化した後に初期充電する際に実施する性能検査も、品質確保のためには重要です。具体的には初期充電のカーブ解析や温度上昇などの検出、内部抵抗や密閉性の検査などが挙げられます。
安全性に関する検査も、高い精度が要求されます。過充電した際の熱暴走の発生や、充放電による劣化具合などをチェックします。車載電池については、衝撃や圧壊の評価も求められます。リチウムイオンバッテリーは内部が液体のため、分解すると揮発性の高い電解液が漏れ出したり、大気中の水分と反応して発火・変質したりする懸念があります。分解が難しいことが、検査をより困難にしています。

バッテリーの品質検査の課題を解決する手法として、世界的に活用が広がっているのがX線CTによる非破壊検査です。X線自体は以前から存在する技術です。健康診断でのレントゲン検査などに使用されてきました。様々な製品の品質検査にも活用されているものの、二次元で情報を検出するため奥行きが判別できないなど、得られる情報には限界もあります。
そこで、先進的なメーカーなどが導入を始めたのがX線CTです。X線を用いて非破壊で断面像を撮影できるX線CTは、三次元の情報を得ることができます。コンピューターの性能向上に伴って、CTの活用が広がり始めたこともあり、バッテリー製造においても2000年代になって品質検査にX線CTを導入するメーカーが増えています。
また、CT自体の性能向上によって、X線CTの装置も多様化してきました。低出力のX線によって材料の細かい部分まで検査できるX線顕微鏡から、車一台ごと撮影できる高出力で大型のX線CTまで存在します。工程に合わせて適切なX線CTの装置を選ぶことで、高精度の検査を容易に実施できます。

バッテリー製造の品質検査においてX線CTを活用するメリットの一つは、非破壊で360度全方向から撮影した三次元データが得られることです。内部構造の情報を検出する装置に加えて、最近では寸法を計測して正確さを保証する計測用のX線CTも登場しています。
X線CTはバッテリー製造の様々な工程で活用できます。大きな効果を発揮する工程に、セル化やモジュール化、製品としてパック化した後の品質検査があります。当然ながら、製造の現場では誤差はつきものです。内部構造と外観をX線CTによって検査することで、許容される誤差の範囲である公差を逸脱しない製品かどうかを確認できます。分解などができないリチウムイオンバッテリーにとっては、最適な検査方法です。
X線CTが進化した装置に、高速CTもあります。高速に三次元データを得る技術で、製造ライン上に撮影装置を組み込めます。製造ラインを流れる部品やセル、モジュールなどの検査を、高速かつ大量に実施することが可能で、生産性向上も実現できます。
X線CTを活用するメリットは、非破壊検査だけに留まりません。開発段階において、リバースエンジニアリングに利用できることも大きなメリットです。材料をはじめ、内部の構造や状態などを分解せずに観察できるため、他社製品のベンチマーク比較や内部構造調査にも活用可能です。
高出力のX線CTであれば、バッテリーのパックの状態を維持したまま寸法評価もできます。取得したデータをCAD化することで、レプリカを作成できます。さらに、物理現象をシミュレーションするCAEによって、製品の構造や性能も解析できます。実用化が始まっている次世代電池の全固体電池など、新技術の開発にも応用できます。
また、製品の合格と不合格を識別するOK/NG判定にもX線CTの活用は有効です。特に日本の製造現場では、大事をとって安全係数を大きく掛ける傾向があると言われています。その結果、NGとはいえない品質なのに、NG品にしているケースは少なくないと推察されます。X線CTを活用すれば、過剰な安全係数による過判定を抑制して、廃棄コストの低減にも寄与できる可能性があります。

ここまで見てきたように、X線CTを活用することで、内部構造や外観、寸法などの検査が非破壊で実施できることに加え、三次元データを取得できます。ただ、得られる知見は他にもあります。OK/NG判定のために取得した三次元データを基に、デジタルツインとしてコンピューター上に残すことによって、検査やリバースエンジニアリング以外への活用も広がります。
その一つは不具合品が出た場合の原因解析です。市場不具合品や、発火などによる事故が発生したバッテリーの原因調査においては、X線CTは最も重要な解析ツールの一つです。X線CTで検出できる典型的な故障要因には、内部短絡、剥離、電解液リーク、変形やクラック、異常なガスの生成などが挙げられます。初期状態の三次元データと、不具合発生後のデータを照合することで、根本原因の特定とフィードバックを迅速化できます。
もう一つは劣化メカニズムの解析です。X線CTによって、サイクル劣化による電極の膨張や収縮、集電体や活物質のクラック、セパレータの変形、リチウム折出の形成状況などを解析できます。解析によって、バッテリーの材料や構造の最適化を可能にします。
このような解析は、非破壊で三次元の情報を得られるX線CTだからこそ実現できます。検査やOK/NG判定以外にも多くの知見を得られることを考えれば、活用するメリットは極めて大きく、「検査だけではもったいない」のは明白です。
一方で、バッテリー製造における検査にX線CTを使用する場合には、注意点もあります。前述の通り、低出力から高出力のものまで様々な検査設備があり、特に車載用のリチウムイオンバッテリーでは工程やサイズに応じて最適なCTが異なります。電極製造ではマイクロフォーカスCT、セルの組み立てではミリフォーカスCT、モジュールやパックでは高エネルギーCTなど、それぞれ適した出力を持つ装置を使用することが必要です。
▼4月22日開催ウェビナーのご案内
本ウェビナーでは、バッテリー製造における品質・安全性向上のために、X線CTをどのように活用できるのかを具体的に解説します。
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皆さまのご参加をお待ちしております。

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